現在も現役の26インチ大屈折望遠鏡
作成:舟越 和己
二重星のカタログは「Washington Double Star Catalog (WDS)、Sixth Catalog of Orbits of Visual
Binary Stars (ORB6)」が有名ですがこれを作成しているのはU.S. Naval Observatoryです。
この天文台には火星の衛星発見に使用されたことで有名なアルバン・クラーク製の26インチ大屈折
望遠鏡があり、137年経た今日でも二重星の位置測定に現役で使われています。こういう古いもの
が現在でも現役で専門家に使われるというのは他の科学では考えられないことのように思われます。
また、毎週月曜日の曇りの日は観測に使われないので天文台のナイトツアーに組み込まれている
そうです。米国人にとっては、まだ新興国だった19世紀に伝統ある欧州の天文台が見つけられな
かった火星の衛星を発見した望遠鏡として現在でも人気があるのでしょう。
火星衛星発見当時はワシントン市民が天文台に多数訪れ入場整理券発行の機械を設置しなけれ
ばならなかったほどだった、と当時の新聞は伝えているそうです(これは、S&Tの過去記事より)。
なんとなく最近の小惑星探査カプセル公開の話に似てますね。
(下記の6行は2022年11月追記)
S& Tの1973年10月 A Historic Refractor's 100th Anniversaryの中に米国海軍天文台の26インチ
屈折の分解能についての説明がありました(1967年に書かれた報告);
これによると、「離角0".20〜0".24のペアは通常分離して見える。良いシーイング条件の下で二星の
光度差が小さい明るい星では、離角0".11〜0".13のペアが細長い(elongation)のを見ることができる」
と書いてあります。また、エアリーディスクもシャープで回折リングのパターンも全ての方位に一定の
明るさの円に見えるとあり、アルバン・クラークの対物レンズが優れていると書いてあります。
米国海軍天文台の26インチ大屈折望遠鏡の紹介に書かれていた説明を下記に示します;
USNO(U.S. Naval Observatory)の26インチ”大赤道儀”屈折望遠鏡はワシントンD.C.の天文台に
設置され、空が曇っているときは(天文台の)月曜のナイトツアーに一部に含まれている。
この望遠鏡は歴史がある。1873年に50万ドルの費用で作られ、当時10年間の間世界で最も大きな
屈折望遠鏡だった。レンズと架台はマサチューセッツ州ケンブリッジポートの有名なAlvan Clark &
Sons社により作られ、大望遠鏡はワシントンの霧の多い低地にある古い海軍天文台の敷地に建てられた。
1877年8月に、天文学者アサフ・ホールが火星の2つの月、フォボスとデイモスを”大赤道儀望遠鏡”
で発見し、米国海軍天文台に世界の注目をもたらしたのはこの場所からだった。
1893年に天文台の現在の場所への移転で26インチレンズはオハイオ州クリーブランドのWarner &
Swasey社により設計された新しい架台を持つ新しいドームに移された。この設計はアイピースにアク
セスしやすいように(ドームの)床が昇降できるようになっている。この床は現在でも市で最も大きな
エレベータである!
今日、この望遠鏡は晴れた夜はいつでも二重星のパラメータを測定するために使われている。天文
学者がマイクロメータを使用して行う眼視観測は、エレクトロニックイメージング技術に置き換えら
れてきた。CCDカメラによる非常に短い露出をすることにより、天文学者は地球の大気の影響を和ら
げて二重星の離角と位置角を測定する利点を得ている。スペックルインターフェロメトリとして知ら
れている技術は大望遠鏡の135年近い古い光学系に適していて、(都市の)郊外に位置している天文
台という条件に比較的影響されない。毎年、数千の星が測定され、一世紀以上に遡る眼視観測に追加
された天文台のデータベースは世界で最も分かり易い二重星のカタログの一つを提供している。
この望遠鏡はまた、軌道パラメータを洗練する目的で外惑星の月の位置を測定するために使用され
ている。これらのデータはそういう遠い世界へのミッションを計画するのに不可欠である。
余談ですが、国立天文台も天文普及の一般公開に65cm大赤道儀室からサブのZEISS製長焦点
屈折を使って惑星観望をしたら、と思います(メインの65cmは写真用だったと思いますが、サブと
いっても30cm以上あり、しかもFが非常に大きいので各種の収差は非常に少ない。以前何かの本で、
このサブ望遠鏡は非常に良く見えると書いてありました)。大口径反射よりは余程良く見えると思い
ますし、大屈折望遠鏡の迫力もあります(しかし維持費の問題で無理?)。