Neil English著Classic Telescopes: A Guide to Collecting, Restoring and Using Telescopes of Yesteryear

(2012年にSpringerから出版)の各章(全部で13章)の概要紹介。

第1章 ドロンドの世紀
・著者はある人から3インチf/15のドロンドの”学生用”屈折望遠鏡を借りて、その望遠鏡の特徴を説明し、メシエ天体や二重星をそれで見てテストするところから始まります。
・望遠鏡の歴史として色消しレンズ誕生にまつわる話があり、次にドロンドファミリー、ラムスデン、ドーズなどドロンド望遠鏡の盛衰と、当時それを使用した人の報告(見え方等)。
・デンマークのアマチュア天文家が所有しているドロンドの1775年の3.5インチ、f/12トリプレットアクロマートとツァイスAS100/1000との見え方の比較の話も有ります(色補正はツァイスとほとんど同じくらい良好)。
・その他にネルソン提督(コペンハーゲン海戦のときの有名な話)や米国大統領だったトーマス・ジェファーソン(ジェス・ラムスデンによる赤道儀式望遠鏡を取得)の話も出て来て読み物としても面白い内容でした。

第2章 ヨークシャー人は成功する
・ここは、クック(Cooke)の屈折が主な話でその歴史とそれを使った人の感想が多数載っています。ドーズなどの過去に使っていた人の話だけでなく、Cookeの屈折は英国を中心に現在も使っている人がいてその人へのインタビュー(現在の望遠鏡との見え方の比較)など。タイトルはトーマス・クックがヨークシャー人のためです。
・また、ビクトリア時代、裕福なアマチュアにより運用された個人所有の天文台は英国中でブームになり、それに関係した人々は「紳士の天文学者(Gentleman Astronomer)」と呼ばれたそうです(ハーシェルやスミス提督など)。
・トーマス・クックの生涯の話の中では最大の業績の一つである25インチのNewall屈折望遠鏡の望遠鏡製作にクックが大変な苦労をした話が載っています(この原因は作業期間見積りの過小評価、さらにライバルのハワード・グラッブの見積より価格を下げようとして、作業に対して非常に少ない価格を提示したなど、現代の大規模プロジェクトの失敗の話と似ているところがあります。)。
・クックの他には、フラウンフォーファ, ギナン, W. ストルーベ, W. H. スミス (スミス提督)などが登場しています。フラウンフォーファの作った9.5インチ屈折がロシアのドルパト天文台に納品されたときのW. ストルーベの感想など興味ある話が載っています。

第3章 昔々、アメリカでは
・この章はクラークやブラッシャーなどのアメリカの天体望遠鏡製作者の話でした。クラークがレンズ製作者になった経緯や、クラークの望遠鏡を使用した人(当時の人々や現在使用している人)のコメントなど。クラークのレンズのロンキーテストなど光学的評価も載っています。
・クラークやブラッシャー以外ではMogey, Melish ,Tinsleyなどのアメリカの望遠鏡製作者の話も載っています。

第4章 ツァイスは素晴らしい
この章はツァイスの歴史とツァイス天体望遠鏡の話です。AS80/1200と最近の短焦点アポ(Stellarvue SV80 f/6トリプレットアポクロマート)との見え方の比較のレポートなど参考になる話もありましたが、APQについては大体知っている内容でした。

第5章 ブロードハースト、クラークソン&フラーの物語
この章は英国のブロードハースト、クラークソン&フラーという会社の物語です。名前が長い会社ですがこれは吸収・合併の繰り返しのためです。1990年始め頃まではクラシックな望遠鏡製作をしていましたが現在は輸入代理店として残っています。

第6章 60mm軍団
この章は、これまでの章とは異なり現代に近い60mmクラスの小屈折望遠鏡の話です。スイフト50mm屈折とタスコ14TEの多方面の比較(機材としての比較、昼間の景色の見え方の比較、スターテストなど)を通した著者の小型屈折望遠鏡論のような内容です。文章はこれまで以上に慣用句や凝った(文学的?)表現が随所に見られます。日本のTOWAやCartonの名前も登場します。

第7章 クラシック反射
この章は、反射望遠鏡の歴史と代表的なミラー製作者などの話です。登場する主なものは、Calver,Brashear, Cave, Edmund, Criterionです。これらの望遠鏡を現在でも使用している人のレポートも載っています。この中でCriterion社のニュートン式反射RV-6を「'57 Chevy of telescope」と呼ぶ人がいた、と書いてありました。'57 Chevy は1957年型のシボレーのことのようなので、望遠鏡界のシボレーとはどういう喩えでしょうか?

第8章 ユニトロンの時代
この章は、ユニトロンの歴史とその望遠鏡の特徴の話です。ユニトロンのブランドは、シンプルで丈夫な長焦点の光学系と頑強でエレガントな機構により、特にアメリカのモダンクラシックの熱心なコレクターの間で大変尊敬され、評判を獲得したということです。

第9章 魔笛
この章はアクロマート屈折の業績と特徴が書かれていて、特に後半はアクロマート屈折に対する著者の思いが中心です。現代の流行である短焦点アポクロマートに対する古典的な長焦点アクロマートを使用するガラスの特性や焦点深度、ストレール強度の安定性などを含めて比較分析した「アクロマート屈折論」というような内容です。9章のタイトルである魔笛(Die Zauberflote)は、古典的なアクロマートのことを指しています。わざわざドイツ語のタイトルになっているのは、モーツァルトの歌劇『魔笛(Die Zauberflote)』を意識しているためと思われます。歌劇『魔笛』の中では「魔法の笛」は野獣をなごませる不思議の力を発揮しますが、長焦点のアクロマートは温度差や大気の揺らぎの影響を緩和させる力を持っています。

第10章 新しいガラスの開拓者
この章は、アポクロマート屈折の先駆者達の話です。登場するのは、タカハシ、アストロフィジックス、ミード、テレビューです。この中でアストロフィジックスの話に多くのページが割かれています(120mmの2枚玉アストロフィジックス屈折望遠鏡のユーザーレポートなど)。

第11章 クラシック・カタディオプトリック
この章はクエスター、セレストロン、ミードの話です。クエスター光学系の説明(副鏡の構造など)が詳しく書かれています。興味ある内容として、トロント大学の天文学教授で熱心なアマチュア観測家のBobAbraham氏の「なぜクエスター望遠鏡が人々にアピールするか」についてのかなり詳細な洞察と、Q7を愛用しているCloudy NightsのDouble star observingの常連の一人のレポートの2つです。また、Q3.5, Q7だけでなくQ12(クエスター12インチ)の話も載っています。Q7の生産台数は1.000台のようです。セレストロンについては、珍しいセレストロン・コメット・キャッチャー(Celestron Comet Catcher)の話が載っています(5.6インチ(140mm)で焦点距離500mm(f/3.6)のシュミット・ニュートン)。また、赤道儀のトラッキングモードにKingというのがあるのを知りました。

第12章 名人のレンズの復活
この章は、パトリック・ムーア卿の3インチf/12のブロードハースト・クラークソンのアクロマート屈折と5インチf/12のクックの修復の話です。この中で修復の伝統的な手法が紹介されています。

第13章 21世紀のアンティーク望遠鏡
この章は、クラシック望遠鏡市場の現状と今後の展望です。アンティーク取引きの特徴や問題点などが紹介されています。

エピローグ:ビザンティウムへの船出
エピローグは、以前にも4インチ屈折掲示板でも紹介しましたが、アクロマート屈折での天体観測の情景をかなり文芸的な内容で記述しています。最後にアイルランド出身の詩人ウィリアム・バトラー・イェイツ(Wiliam Butler Yeats)の詩「ビザンティウムへの船出(Sailing to Byzantium)」の一節(下記)が引用されて終わります。
  “Once out of nature I shall never take
  My bodily form from any natural thing
  But such a form as Grecian goldsmiths make
  Of hammered gold and gold enamelling
  To keep a drowsy Emperor awake
  Or set upon a golden bough to sing
  To the Lords and ladies of Byzantium
  Of what is past, or passing, or to come.”