アポダイゼーションについて
2014年10月 舟越 和己
1.アポダイゼーションとは
アポダイゼーション(Apodization)とは、開口の透過性質を変更し、回折リング
を弱めるために使用されます(回折リングの存在が対象のコントラスト低下につな
がることがあるので)。ここで“Apod-”は”足の無い”を意味します(注1)
(注1)ギリシャ語の「足をとる」という言葉に由来。
「回折リングを弱める」とは、下の図の右のようになるということです(その代償に、
エアリーディスクは肥大します)。
2.アポダイゼーションによる回折像の光の強度分布
下記URLのFIGURE 111Bの一番上に、アポダイゼーションによる回折像の光の
強度分布(黒のライン)と、通常の無遮蔽の開口による回折像の光の強度(赤の
ライン)を比較したものが載っています;
http://www.telescope-optics.net/apodizing_mask.htm
→この図から、
@黒の回折リングの光の強度は抑制されている。
(例)第一回折リングは1/10,第二回折リングは1/100程度まで強度が
低下している。
A黒のエアリーディスクの半径は大きくなっている。
ことが分かります。
3.遮光による開口の透過性質を変更
ここで議論する開口の遮光は、下の図のように、
「開口の中心では光の完全な通過」を行い、「開口の縁に近くなるにつれて徐々
に光の通過を減少する」
ようなスクリーンです。
これにより、開口の透過性質を変更します。例えば、下の図では、開口の周辺で
透過率が減少しています。
このように減少する遮光された光量の分布は、右端のカーブのような切断ガウス
関数(truncated Gaussian function)が使われます(注)。切断ガウス関数を使った
遮光を「切断ガウス遮光」と言います。
(注)ガウス関数は測定の統計的偏差を表現する良く知られた釣り鐘状のカーブ。
”切断(truncated)”という言葉は開口の縁でカーブが切れている為。
4.アポダイゼーション実現の例
@アポダイジングスクリーンは、下の左図のように透過率が周辺に行くほど低下
するように編目などを使って作ります。このとき、透過率の分布は切断ガウス
関数の近似として、階段状の関数になります。
A製作例は下の右図を参照。そして、これを望遠鏡の対物の前に装着します。
5.アポダイゼーションにより回折リングが弱められる理由
下の図のように、中心から半径の60%までが透過率100%、半径の60%から100%
までが透過率50%の半径aのアポダイジングスクリーンを開口の前に置いたときの
回折像の強度について考えてみます。
上記の状況はアポダイジングスクリーンがないときの光の50%の強度の光を
半径aの開口と半径0.6aの開口 に入射させ、それらの回折像を合成したものと
同じです。・・・(1)
このとき、半径aの開口からの回折光の第一回折リング付近では両者の回折光
の振幅の符号が逆転しています。
上の図の赤丸の部分を拡大すると、次のようになります。
「2つの回折像の合成をする」とは、図の矢印の大きさの和です。
(例)図の点Pで、半径aの開口の振幅が-0.132、半径0.6aの開口の振幅が0.090
とすると、それらの振幅の和は、
-0.132+0.09=-0.042
となります。
この例のように、振幅の和の絶対値が半径aの開口の振幅の絶対値よりもずっと
小さくなります。
→アポダイゼーションの第一回折リングが非常に暗くなる理由はここにあります。
次に、フラウンフォーファー回折の結果から下記の各々のケースについて回折光
の強さ(振幅)を求めます;
@50%の強度の光が半径aの開口に入るときの回折光の強さ(振幅)
=(0.5)1/2*半径aの開口による回折像の強さ(振幅)
A50%の強度の光が半径0.6aの開口に入るときの回折光の強さ(振幅)
=(0.5)1/2*半径0.6aの開口による回折像の強さ(振幅)
したがって、2つの回折像の合成をフラウンフォーファー回折の言葉で表せば、
●中心から半径の60%までが透過率100%、半径の60%から
100%までが透過率50%の半径aのアポダイジングスクリーン
を開口の前に置いたときの回折像の強度
=((0.5)1/2*半径aの開口による回折像の振幅
+(0.5)1/2*半径0.6aの開口による回折像の振幅)2となります。
フラウンフォーファー回折の式で表現すると、
●中心から半径のε(0<ε<1)までが透過率100%、半径εから
1.0までが透過率50%の半径aのアポダイジングスクリーンを開口
の前に置いたときの回折像の強度=
((0.5)1/2*2*BESSEL(x)/x +(0.5)1/2*2*ε*ε*BESSEL(ε*x)/ε*x)2
においてε=0.6としてとしたものです(BESSELはベッセル関数)。
実際にこの式を計算してみると次のようなグラフになります
(横軸の正の部分のみ表示)。
■下の左のグラフはアポダイジングマスク使用。右は比較のために使用しない場合
の回折リングの光の強度分布です。
→図から分かるようにマスク使用の場合、第一回折リングの光の強度は1/10位
に低下します。一方、エアリーディスクの半径は4.6/3.8≒1.2倍に肥大します。
■それでは次に、半径の60%から100%までの透過率を60%に変えたらどうなるかを
考えてみます。
このときはアポダイジングスクリーンがないときの60%の強度の光を半径aの開口
に、40%の光を半径0.6aの開口に入射させ、それらの回折像を合成したものと同じ
です。
従って、フラウンフォーファー回折の式で表現すると、
●中心から半径のε(0<ε<1)までが透過率100%、半径εから
1.0までが透過率40%の半径aのアポダイジングスクリーンを開口
の前に置いたときの回折像の強度
=((0.6)1/2*2*BESSEL(x)/x +(0.4)1/2*2*ε*ε*BESSEL(ε*x)/ε*x)2
においてε=0.6としてとしたもの(BESSELはベッセル関数)を計算すれば良い
と思います。0.6と0.4の平方根をとる理由は強度を振幅に直すためです。
以上のことから、アポダイゼーションにより回折リングが弱められる理由は、
「全開口と、マスクにより狭められた開口という2つの開口からの回折光は
振幅の符号が逆で重なり、その結果、それらの合成振幅が小さくなるため」
です。
(参考)中央遮蔽のある開口で第一回折リングが強められる理由は
「全開口からの回折光と、中央遮蔽からのマイナスの回折光は同符号で
重なるため、それらの合成振幅が大きくなるため」です。
→アポダイゼーション(遮光)と中央遮蔽は逆の働きをしています。