ガロア接続の由来
2013年 作成 舟越 和己
ガロア接続(Galois connection)の話題に馴染みのない人は、次のことを知りたいと思うかもしれない;
・その起源は何か?
・それはどこで使われているか?
・この理論の主要な開拓者はだれか?
1.1 ガロア接続の歴史
簡単に歴史を振り返れば、
・19世紀の段階では、ラグランジュ、アーベル、ガロア、デデキントのようなガロア理論の開拓者たち
の研究に遭遇する機会を持つことはできるけれども、(現代で言う)ガロア理論の概念はまだ生ま
れていなかった。
・20世紀になり、Birkhoffの"polarities(極性)"、Oreの"Galois connexions"、そして"Adjunctions
(随伴)"として知られているSchmidtの"Galois correspondences of mixed type"は、ガロア接続の
現代的な見方へのマイルストーンとなった。
1.2 ガロア接続の直感的説明
ガロア接続は、下記のように2つの世界を関連付けるものである。
"In their most general sense, adjunctions and /or Galois connections make it possible to relate two "worlds" of (more or less mathematical) objects with each other in order to gain information about one world by passing to the other, perhaps better known world."(一般的な意味で随伴またはガロア接続は、一方の世界についての情報をよく知られた世界である他方に渡すことで得るために、基本的には数学的対象という2つの”世界”をお互いに関係付けることができる。)
この考えの起源がE.ガロア(注)にあるので20世紀になってガロア接続と呼ばれるようになった。
(注)19世紀フランスの数学者 E.ガロア(1811〜1832)に因む。エコール・ノルマル在学中に代数学
におけるガロア理論を確立した(20歳のとき決闘で死去)。
(Je n'ai pas le temps:時間がない)
簡単に言えば、2つの典型的な”小宇宙的世界”は等式または不等式の左辺側と右辺側になることができる。
このような状況の記述は(擬)順序集合間に定義された条件
λ(p)≦q⇔p≦ρ(q)
を仮定した写像の対により行なわれる。
(注)準順序:反射律と推移律のみを満たす場合を擬順序(quasi-order)という。
本資料の説明では、αがλ、γがρに対応。
ここで、随伴について説明する;
順序集合間の写像λ:P→Qおよびρ:Q→Pが任意のp∈P、q∈Qに対して
λ(p)≦q ⇔ p≦ρ(q)
を満たすとき、写像対(λ、ρ)は随伴であるという。また、λをρの左随伴、ρをλの右随伴という。
<随伴の性質>
・λ(ρ(λ))=λ ・ρ(λ(ρ))=ρ が成り立つ。
■ガロア接続とは何か?
通常、ガロア接続という用語は、随伴(adjunctons)と呼ぶものの同義語として使用される。本資料でもこの意味で使用している。しかし、厳密には、随伴の"共変(covariant)"とガロア接続の"反変(contravariant)"は本来は区別されていた。
このように、2番目の順序集合Qの順序を逆転(inverted)することにより、同値の定義が”シンメトリック”となるガロア接続の古典的定義に到達する: p≦ρ(q) ⇔ q≦λ(p)
参考に、ガロア接続とガロア理論のガロア対応を比較すると次のようになる。
(参考)形式概念分析(Formal Concept Analysis)
ガロア接続の数学以外の適用例として形式概念分析がある。
@この新しい実践指向の数学的に基礎付けられた理論はRudolf Willeとその共同研究者により1970
年代に始まり広められた。
A形式概念分析は、極性と束論という数学的概念を数学だけでなく哲学的概念や分類手法、工学、
生物学、医学、歴史から美術、音楽まで様々な数学外の領域に結び付ける。
Bこのテーマについての分かり易い情報は下記の本を参照;
Ganter, B Wille, R. : Formal Concept Analyaia - Mathematical Foundation. Springer, 1999