【図解】光学精度の表現

                              2017年10月作成:舟越 和己

ここでは、天体望遠鏡の対物レンズやミラーの光学精度はどのように表現できるかを
出来るだけ図でビジュアルに説明します。

まず、準備として「波面(wavefront)」という概念を知っておく必要があります。

1. 波面とは?
 ■同一光源で発生し、そこから等しい光路長をつないだ光の面を「波面(wavefront)」と
  言います。
 ■ある時刻における波面は、この時刻よりもほんの少し前の時刻における
  波面から発生した無数の小さな球面波によって構成されます(これを
  ホイヘンスの原理と言います)。
  
  上の図の無数の小さな球面波を「素元波(そげんは)」と言います。

2. 星からの光
 ■星からの光は、星から放射される球面波面としてやって来ます。但し、星は非常に遠方
  にあるので、星からの球面波面は平行な平面波面と見なせます。
  

3. レンズやミラーに到達した後の波面(理想光学系)
 ■星からの光の波面は、平行な平面の波面として望遠鏡の入口(開口)に到達します(図の@)。
  理想光学系を通過した波面は、焦点に収束する同心球面の波面として進みます。
 

4. 波面収差とは?
 ■波面収差とは、レンズを通過した同心球面波面の乱れのことです。
   
   ・レンズを通過した波面が理想球面波に近い ⇔ レンズが優秀。
   ・波面の乱れが大きい ⇔ レンズ又は望遠鏡の使用環境に問題有り。
  
  ●ポイント:レンズの光学精度は、レンズを通過した直後の波面の乱れで決まる。
         (ミラーの場合は反射の直後)

5. 波面収差のビジュアル表示
 ■波面収差は、実際の波面と理想波面の偏差です。
  →理想波面を基準にすると、実際の波面は下の図のように偏差が谷やピークとして
    表される表面となります。
  

 ■波面収差の偏差の状況は、ピークと谷の基準からの偏差の大きさを色分けすること
  により、下の図のようにビジュアルに表示することができます。
  

6. 波面収差の数値表現例1:P-V波面収差
 ■対物レンズやミラーの光学精度を1個の数値のみで表現する最も単純な指標は、
  P-V波面収差です。

 ■P-V波面収差とは?
  下の図のように、レンズを通過した波面と理想波面の偏差の最大値をP-V波面収差と
  言います。
  
 ■レイリーの評価基準
  光学精度に関するレイリーの評価基準は、P-V波面収差を使って表現されます。すなわち、
  「もし全体の波面誤差(ピークから谷)が黄緑の光(波長λ=550nm)の1/4λを越えるならば、
   その光学系は明らかなでグレードが始まる」
   
  →従って、
   「P-V波面収差が1/4λ以内であれば、その光学系は天体望遠鏡として必要な精度(注)を
    持つ」
   と言われます。
   (注)回折による制限のみを受けた像質に達するということ(ディフラクション・リミテッド)。

7. 波面収差の数値表現例2:RMS波面収差
 ■対物レンズやミラーの光学精度を1個の数値のみで表現する別の指標に、「RMS波面収差」
  があります。

 ■RMS波面収差とは?
  RMSとは、Root Mean Square(平均二乗平方根)の略で、実際の波面と理想波面の偏差を
  標準偏差で表したものです。
  RMS波面収差の計算は下記の式から求められます;
  
  

8. 光学精度を表現するもう一つの指標:ストレールレシオ
 ■ストレールレシオ(Strehl ratio)とは?
  これは、回折像のセントラルスポット(注)に集まる光の強度と、無収差の光学系のセントラル
  スポットに集まる光の強度との比のことです。
  (注)回折像の最も明るい部分でエアリーディスクとも言う。
  

 ■一般に、ストレールレシオ=0.8 (80%) の値に達した場合、その光学系は回折のみの制限を
  受ける(ディフラクション・リミテッドに達する)と言われます。
  これは、レイリーの1/4λ波長の光学精度に相当します。

 ■RMS波面収差とストレールレシオとの関係
  
  ストレールレシオ(V) ≒ 1- (2π×RMS波面収差)2

9.レンズ検査証明書の見方
 ■下の図は、海外のメーカーの対物レンズの品質検査証明書に載っているものです。
  ここには、これまで説明した波面収差のビジュアル表示とその測定結果が示されて
  います。