小口径望遠鏡での驚きの記録集
これは、本やWeb等で見かけた「小口径望遠鏡の限界或いはそれ以上と思われる記録等」を
集めたものです。あくまで「ある最良の条件が揃えば見えるかも」という参考です。

(1)10cmで冥王星を見た。
  これを聞いたら信じ難い内容ですが、S&Tの2000年8月号(だったと思います)には
  S.J.O'meara氏がハワイから10cmで冥王星を見たという内容の記事がありました。

 (補足)S.J.O'meara著 のTHE Messier objects を読んでいると「極限等級の理論値は、
     暗夜の瞳孔の直径の平均値が7mmのとき人の目にみえる最微光星が6等星をベース
     に算出されている ので実際には幅があり、空や見る人のコンディションなどにより
     理論値よりも相当暗い星まで見える」と書いてありました。肉眼で見える最微光星
     も正規分布しているのかもしれません。瞳孔の直径が7mmで目にみえる最微光星が
     6等星をベースにした理論値では10cmの望遠鏡の極限等級は、11.8等ですが、
     S.J.O'meara氏は、本当に暗い空では10cmで14等近くまで見ることができる
     (肉眼では、マウナケア山頂で8.4等)と云っています。
     古い本(木辺成麿著:天体望遠鏡の作り方(昭和16年))では、「北極星野に
     より10cm反射で13.3等±位まで認め得た。」とあります。戦前は日本の空も
     暗かったようです。

(2)10cmでシリウス伴星を見た。
  南仏ニースでの話です;
     Paul Couteau著のObserving Visual Double Starsの中に「The companion
     of Sirius has been seen at Nice with 10-cm refractor ,although it is
     difficult to observe even with very large instruments.」という記述より。
     (見えた時期や条件など書いてありませんが、著者は、仏ニース天文台のスタッフ
      アストロノマ−。二重星観測の大家なので多分確かなのでしょう。)

(3)トラペジウムE,F星をどちらも3-inchの望遠鏡で見た。
  S. W. Burnham(1838-1921)の記録です。E,F星ともに変光星らしいので当時は今より
  明るかったのかもしれません。それにしても驚きです。
  上記(1)に出ているStephen James O'Meara氏も著書「The Messier Objects」
  の中で「Burnham writes that both"E"and"F"have been seen with apeatures
   smaller than 3 inch ! 」と驚嘆しています。
 <私のコメント>
  トラペジウムのE,F星は、何回か挑戦しましたが私の10cmでは見えませんでした。
  空の条件が良いといわれる南会津でも確認できませんでした。

(4)10cmで火星の衛星デイモスを見た。
  03年9月頃のTMBのメーリングリストに載っていた話です;
    TV102にTMB Super Monoを使用して火星の衛星(デイモス)をaverted vision
   (そらし目)で見た。
    →そらし目とはいえ、明るい火星本体の近くの13等級クラスといわれるデイモスを
     10cmの屈折で見たというのは驚きです。

(補足)火星の衛星について:S&Tの01年6月号のS.J.O'Meara氏のレポートでは、衛星の
    最大離角時にocculting bar等により明るい火星が見えないようにしての方法でも
    8〜9インチはないと難しい。(1988年接近時のデイモス検出の最小記録は非常
    に透明度の良い夜に6インチF15屈折とのことですが、検出できるギリギリの状態で
    側に有る16インチ望遠鏡によりようやく確信したということです。)尚、明るい
    フォボスの方が火星に近いため難いそうです。

(5)月のアルプス谷のrilleは13cmの屈折で見える。
  Gerald North著「Observing the Moon:The modern astronomer's guide」より;
  「Under appropriate illumination and excellent seeing conditions the rille
   can be seen in a 13cm refractor of first-class optical quality.」
  (適切な光のあたりと最良のシーイングの下で、ファーストクラスの光学系の13cm
   屈折で見ることが出来る)→ベストコンディションならTOA130で見れそうですね。
  但し、これを見るのは余程難しいらしく、上記の文章に続いて下記が書いてあります;
  「However,it is elusive and you need not doubt your abilities if you fail
   to see it even when using a more powerful telescope.」
  (しかしながら、それはとらえがたいものであり、もしあなたがより大きな望遠鏡でも
   見れなかったとしてもあなたの能力を疑う必要はありません)
  (補足1)Gerald North氏は、物理・天文を修めて大学で教えていたが現在はフリー
     の天文家、ライター。BAA(British Astronomical Association)の会員で
     月面課(Luner Section)を担当。他の著書に、「Advanced Amateur Astronomy」
     がある。
   <余談>上記、「Observing the Moon:The modern astronomer's guide」の中に
    日本では過去の遺物と思われているTolles eyepieceの話しが載っていて、英国では
    現在でも惑星観測に使っているひとがいるそうです。また、BAAジャーナルには、
    Tolles eyepieceを(レンズ研摩から)自作した人の記事もありました。
    →Tolles eyepieceについては、当HPの「Poor man's orthoscopic」を参照。
  (補足2)月のアルプス谷のrilleは、W.H.PickeringがPeruにある13インチ屈折で
     1891年に発見したそうです。(非公式の名前として「Pickering's Rille」
     とも云われます)

(6)25cm反射で冥王星と衛星カロンを南北に伸びた像として検出。
  小口径ではありませんが、98年7月の月天に載っていた「究極の二重星「冥王星」に挑む」
  より(冥王星とカロンの光度は各々13.7等、14.7等。離角は最大で0".83とのこと)。

<その他:上の記録に載る程ではないもの>
(1)リゲル伴星を1.25インチの望遠鏡で見た。
  
リゲルは二重星として口径5cmの望遠鏡のテストスターですが、Thomas Webb著の
  「Celestial Objects for Common Telescopes」には、それより小口径で見えたと
  いう事例が紹介されています。
  例:Burnham detected it with 1.25 inch; T.T.Smith with 1.5 inch silver spec.
   など、口径3cm程度でも分離。(19世紀の話です。))
 <私のコメント>
  分離出来る最低倍率は?私の場合は、10cm70倍でした。
  →Panoptic-19mm+2×Barlow≒70倍で分離。(2000年12月1日)
 <リゲル伴星の補足>
  リゲル伴星自身は分光的連星だが実視連星ではないかと云われています。R.バーナムJr.
  の星百科大事典には、「S.W.バーナムが1871年に15cm屈折でリゲル伴星が楕円で
  あることをつきとめた。」とあります。

(2)アンタレス伴星を7.5cmや6cmの望遠鏡で見た。
  
オーストラリアのアマチュア天文家E.J.Harungは、7.5cmの望遠鏡で分離したと言って
  いる(オーストラリアの天文雑誌SKY&SPACE(JUN/JUL2000)から)
 <私のコメント>
  アンタレス伴星は、私の10cmでも楽ではありません。見えない日の方が多いです。
  インターネット等見ても、アンタレス伴星が見える最小口径は8cm前後ではないかと
  思われます。→当HPの「アンタレス伴星を見る」を参照。
 <追記>
 月刊天文06年11月号のVoice&Voice欄にアンタレス伴星が6cm屈折(15cmの口径
 を6cmまで絞ったもの)で見えたということが書いてありました。これまでネットや
 雑誌で見た話では3インチが最少だったので6cmは記録更新といえます。

<余談:10cm屈折にとって難しい対象は?>
上記の内容から、最も難しい対象(横綱格)は、やはりシリウス伴星ではないでしょうか。
10cmで冥王星、火星の衛星デイモスを見るというのもこれに近い最も難しいもののひとつ
でしょう。

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